photographer says
あるファックス
「変なファックスが来てるよ」会社の女性が12枚にも及ぶそれをオレに手渡した。それは奇妙な内容であった。40にも及ぶ俳句、匿名で投稿したという擬似恋愛文、黒部ダムからイランまで数々の履歴、はたまた打合せ資料のようなものまで脈絡なく手書きで書かれている。最後のほうにこれが表紙であろう文章を見つけ、送り主はかつて徳山ダムのトンネル工事で一夜を共にした、ある現場の老世話役と分かった。
“西村さまにはたくさんの幸福がきます。なにしろ私にはアラーの神がついてます”“19の時、狩勝トンネルへ行き初めて妻を見ました。中学生でした。8年後初めて手をにぎることができました”“身内は使わない。若い衆の養生もしない。昔、佐藤●勝、鎌倉の息子、仲居電気の例。最近は京都疎水でも大事にして逃げられている”等々・・・全てお見せしたい。
あの夜のことはよく憶えている。夕食を摂っていると徳山の現場より,機械不良で作業が止まっている、すぐ来てくれ、との連絡を受けた(まあ、よく起こったことだが・・・)。揖斐川の堤防を北上し、揖斐川町から30分山道を走ると大きな宿舎群が現れる。そばに仮設開店しているフィリピンパブのネオンが場違いな異彩を放つ。そこよりさらに20分山道を行き、夜中に現場到着。工事は朝方復旧したが、その時側らで手伝ってくれたのがこの人であった。ファックスを受けた翌年トンネルは竣工し、彼は故郷の富良野に帰ったと聞いた。その5年後オレが18年間担当したトンネル事業は市場より撤退することとなった。ファックスにはほんの一部、差し上げた写真のことが記されている。
“僕にカメラを向けた時、もったいないのでダメダメと断ったのにと思いながら、先の短い僕には素晴らしい宝物です。テレビの上に飾り、葬式にも使えます”
オレはこの何枚ものファックスは彼なりの礼状であると受け止めた。
ジュンク西村
*写真は豊川用水工事で撮影。