photographer says

豚小屋のおばちゃん

 養豚場を経営していた子のいない夫婦に、幼少の頃から可愛がってもらった。ある年のお盆の帰省時、村一番の大酒呑みであったそのおじさんが足を悪くし家から出てないようだと聞いて見舞った。オレが登場するや否やおばちゃんに、「おい、ジュンにあれ出っしゃれ」と出てきたのは汚い容器に入った濁った液体。おじさん特製の蜂蜜焼酎。若い頃炭鉱でトロッコと地山に挟まれた手には指が少し足りないが、器用にコップを持ち、人と呑むのは久しぶりという。
 その数日後、また街に戻る日、おじさんの訃報が入る。食事の後眠るように逝ったという。口の悪い近所のおじさんは「あれはジュンが呑ませたからど」と冗談っぽくからかう。内心オレも少し気懸かりではあった。同時に人生の全てをおじさんと農作業に捧げてきたようなおばちゃんの行く末もやはり気になる。おばちゃんのみならず、この辺りは多くの老人が一人暮らしであり、なんせ自動販売機もないようなところで娯楽などあろうはずもない。いつかオレも寂しく死んでいくのだろうと思ってみたりする。
 写真家の星野道夫氏のエッセーに登場するアラスカで一人暮らす白人の老婦人が「孤独を苦しみ抜いて、そこを一度突き抜けてしまうと、不思議な心のバランスを得ることを見つけたの・・・」と呟いた言葉を思い出しながら、一年後の夏おばちゃんのとこへ赤福餅を手土産に顔を出すと、山を下ったところにある障害者施設でお世話のボランティアのようなことを最近始め、それが楽しみでならないと満面の笑顔で言う。オレの心配は大きなお世話で嬉しかった。

ジュンク西村

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