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河内屋


 諏訪湖の蕎麦屋、河内屋が店を閉めたことを聞く。親父さんの足の痛みが限界にきたと聞く。長野への出張の際は、しばしば高速を降りてこの老夫婦の店で昼食をとった。藻塩で食す蕎麦はもちろん、蒸して焼いた鳥が絶品であり、これで呑まねば悔いを残すと、一度は焼酎の蕎麦湯割りを呑んでしまい、予定を大きく変えたこともあったか。

 いかにも頑固な風貌、強面の親父さんがたまにみせる笑顔が素敵だ。その笑顔が、一瞬で元の真顔に戻る特異な表情の変化は無意識に真似てしまうような魅力があった。その笑顔の写った一枚を、お釣りと引き替えにさっとおばちゃんに渡し、さっと店を出た。50m程歩いたところでおばちゃんがオレを追いかけ、ひとつの真っ赤なりんごをくれた。それをかじりながら空っ風の吹く上諏訪の街を少し歩く。りんごはそんなに旨くなかったが、駐車場に着くまでにいつもの癖で芯まで食べてしまっていた。


ジュンク西村

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