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コリアタウン


 フェリーが九州門司を夕方5時半に出港したとき、オレはすでに大浴場でくつろいでいた。修学旅行の団体がいたので乗船してすぐにひとっぷろ浴びたのだ。このフェリーは珍しく二等シングルを有しており、その運賃も大部屋に引けをとらず安く貧乏暇ありのオレは頻繁に利用している。エンジン室に近く音が多少気になるが、お袋の弁当をつまみに親父が手渡してくれたウイスキーのポケットボトルを空けると早々に寝てしまった。翌朝5時40分に大阪泉大津へ着いたのだが、まっすぐ名古屋へ戻るのも勿体なく鶴橋の市場でも覗こうと南海電車に乗り難波から歩いた。
 近鉄駅横の立ち食いでスタミナうどんを食べ場内をうろついた。この街に住んで何軒か店の馴染みになってみたいなあと思う。細い路地に2〜3軒のチマチョゴリの店が向かい合っており鮮やかさに目を奪われる。カメラはモノクロなので携帯でカラー版を撮る。後に知り合いの三世の娘に見せたのだが、鶴橋のチョゴリは古臭いというイメージがあるとのことだった。そういえば下関では在日のデザイナー達により斬新な柄のチョゴリがどんどん生まれ韓国からも買いに来ている、というローカル番組を帰省中実家のテレビでみた。関釜フェリーで行き来の盛んな下関に比べ、賑やかではあるが時が止まったような趣きの鶴橋には保守的な部分があるような気がしないでもない。
 市場内にコーヒーを配達していた70年代ホステス風の髪型をした美人に撮影をやんわりと断られ、ふて腐れその場を離れやや閑静な玉造のほうへ行ってみた。日の出という商店街の入り口手前の小さな祠にお地蔵さんが祀られており、青年が原付を止め1分近く手を合わせていた。実は昨年の夏もオレはここにきており、そのときはおばちゃんがやはり同じくらい長く拝んでおり何かお悩みでもあるのかと思ったが、一日の始まり今日行く先々に不幸がありませんようにと願うのだと別の場所の祠にあった説明書きをあとで読んだ。
 開店前の商店街で忙しそうなのは一本80円と表示された一台の自動販売機を丁寧に水拭きする老婆ぐらいで、彼女は殆ど在庫のない店に入っては出て、この唯一の稼ぎ頭を頼もしい我が子のように何度も見つめていた。商店街を往復した後先程のお地蔵さんを拝んでみた。祠を覗くとお地蔵さんは鮮やかな蛍光色の韓国柄の座布団のうえに同柄の服を着て座っていた。なにかしらこれがコリアンとジャパニーズがうまく共存している象徴に思え、またこのお地蔵さんが何とも可愛らしく、オレは思わず“綺麗なべべ着さしてもろうて・・・えーおますなあ”と拙い関西弁で話しかけた。

ジュンク西村

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