photographer says

おばあちゃんのツイート


 一週間ばかり京都をうろつき、25年前世話になった先輩たちを訪ね歩く。そのうちの一人、大西君に連絡を入れ“一晩泊めてよ”とお願いし、奈良行きの快速に乗り井手町のお宅にお邪魔した。人気な彼なのに結婚する様子もなく独身を通すのかなと思っていたのだが5年前40歳で結婚した。相手の女性とは大西君が22,3の頃一度知り合っているのだが、遠距離ゆえか自然に途絶えたようだった。ある日友人に“あの岡山の子、良かったやん。なんで結婚せーへんかったんや。”と20年近く前の話を持ち出されたその日、帰宅するとその岡山の子から旅行先のハワイの絵葉書が届いており、かつてない運命めいたものを感じた彼はそれに目を通すや否やプロポーズすることを決めたそうである。そしてその2年後には大西家待望の後取りも誕生した。その息子のミニカーごっこの相手をしていると、どこからか木魚の音が鳴っていることに気づく。
 "木魚の音やんねえ?""おばあちゃんが拝んではんねん""えっ、おばあちゃん生きてはんの?""104歳や"
 アメリカ南部の旅の出発の前日、大阪のダイナマイトというクラブだったか、皆で飲んだ後何かの用で大西君宅に立ち寄った。その時オレは足をとられて庭の盆栽を一つ割ってしまった。そんなことはすぐに忘れ丸太町のメトロというクラブで浮かれ、そのままロスアンゼルスに向かった。三ヶ月後帰国した時、大西君に“お前、盆栽割ったやろ。あれおばあちゃんのお気に入りでめっちゃショック受けてはったわ。”と言われ初めて反省の念を抱く。
 酸素吸入機をつけているにもかかわらず、おばあちゃんの叩く木魚の音は一定のリズムで力強く、30分近くも続いたんではなかろうか。カメラに全く気づく様子もなく、たまにその手を止め天井のほうを見上げ、数珠を揉みながら何か呟いている。何をお祈りしているのか知る由もないが、5年前までは孫のことを呟き続けたに違いない。撮影中のオレを見つけた後取りが礼拝中のおばあちゃんに駆け寄ると、彼女はその頭を大きく手の平いっぱいに何度も撫ではった。

ジュンク西村


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